ブログを始めて約1年になりました。
ネタが尽きないようにあまり頻繁の更新をせずに細く長く続けていこうと思っております。
今の私が訪問診療を始めた頃の文章が幼く拙く思えるように、数年後にこのブログを読むときっとおもはゆく思うことでしょう。
訪問診療を始めたばかりの頃、今から考えても比較的濃厚な症例がたくさんで、その「人生」というものを濃く煮詰めたようなお一人お一人について深く考えさせられました。
在宅ホスピスの見学で付いて回っていた頃には見えなかったような世界でした。
在宅ホスピスの患者さんたちは京都市左京区の中でも比較的裕福な地区。ご家族がケアをされるような方が多く、最終的には在宅ホスピスから病院ホスピスに移って亡くなるような流れでした。
一方私が訪問診療をさせていただいていた千春海病院がある乙訓地区は京都の中でも田園地帯に近い新興住宅地で、古いお家と新しいお家が混ざっている地区でした。古いお家では老老介護、または老人独居、子供と同居されていても昼間独居というご家庭が多くありました。
つまり、京都市モデルより一足先の高齢化を体現した地域だったのです。
寝返りがうてない状態での独居の方。
ほとんど言葉を発することができないような重症の認知症で介護への拒否が強い方でした。
この方からは「拒否をする認知症患者との付き合い方」を教わりました。
恐るべきことにこの方(女性)が唯一発するのは女性器の俗称。「◯◯◯ー!!」って叫ばれます。
察するにその言葉を叫ぶと介護の職員が怯んで手が緩むことを学習されたのでしょう。
私はその方に言葉は通じないことを知りながらお声がけをし、今から血圧を測りますよ、痛くありませんよ、などのことを伝えたり、今日は寒いですね、などの世間話をするようにしておりました。一年ぐらい経った頃でしょうか。私が行ってもほとんど拒否がなくなった頃、このかたが「アリガトー!!!」と叫ばれたのでした。
本当に天使の光か何かが私に降ってきたような瞬間でした。
認知症の方だからこそ、丁寧に。拒否が強いからこそ、丁寧に。そのように対応しなくてはならないことを学びました。
認知症が強くて糞尿をいじりまくるお父さんと、ややぶっきらぼうな印象の息子さんの二人暮らしのご家庭。
息子さんの方に拒否が強いケースでした。
こちらとしては丁寧に接すること、お父さんのよくわからない訴えを丁寧に拾い上げることを心がけていました。丁寧な診療を続けているうち、息子さんがお父さんの症状について訴えてくることが増えました。さらに時間が経つにつれ、息子さんの態度が軟化してこられ、私たちが訪問に行く時間帯には鍵が開いていることが増えてきました。息子さんは私たちにはつっけんどんな態度を取る方ですし、お父さんへの悪態もかなりなものでしたが、お父さんを本当に驚くべきこまめさでケアされておられました。
ご自身が丁寧にお父さんをみているからこそ、いい加減な医療や介護が許せなかったのだと学びました。
他にもあの方、この方、まだご存命の方もおられるので書けない方も多いのですが、京都市よりも一歩先に高齢化社会を迎えている乙訓地区で、本気で医療と介護の連携を目指す千春会病院で訪問診療の基本を、いえ、訪問診療の重症例を、たっぷり経験したことは本当に幸運にめぐまれたと思います。
最初から2018年3月に千春会を退職することを決めていたので予定通りの退職になるのですが、この病院で素晴らしい医療者に出会えたこと、素晴らしい介護職に出会えたこと、素晴らしいリハ、栄養管理士、ケアマネさん方に出会えたこと、何より懸命に日々を送る患者さんやご家族様に出会えたことに心から感謝しております。
この経験は今後も私の宝となり、そしてその経験を皆様にこうしてブログでお伝えしたり、講習などでお伝えすることで、皆様にも小さなプレゼントとなることと思います。
大切な時間を自由に過ごさせてくださった千春会病院理事長菊地先生、院長藤原先生、他、医局の先生方に感謝いたします。