ある患者さんが一時的に入院されています。近いうちにまた退院できると思っているけれど、脊椎の病気の進行で体をねじったりするととても痛がられるため介護に細心の注意が必要な状態で、退院後の生活が難しいと感じられる状態です。

入院前には体を拭いたり服を着替えたりなどの作業が痛くて苦しくて、介護士の皆さんも痛がられてしまうとどうしていいのかわからなくて困っていました。

そんな中、訪問看護師さんによる介助は痛みを伴わず、患者さんは安心してゆだねているということでした。

今は入院中のその患者さんが帰ってくる日のために、看護師、介護士参加の体位変換勉強会をすることにしました。

お見舞いに行った訪問看護師によると、病院は快適で食事がおいしく、ナースコールは体が動かせないその人でも呼べるもので、安心して療養できているということを聞き、その報告にうれしさと帰って来れるかなあという寂しさとで少し泣きそうになりました。自宅での療養は確かに難しいかもしれないけれど、いつでも帰ってきてもらえるようにやはり予定通り勉強会をしましょうとケアマネジャーと打ち合わせをしました。

勉強会に先立って質問を集めてくれたケアマネジャーから質問状のファックスが届き、その難問に私も困ってしまいました。これに対して入院中の病院の主治医に連絡し、その難問に病院主治医ならどう考えるかと問い、二人で答えのない答えを模索しました。

こうして勉強会当日、あらかじめの質問に対し、難問ばかりで、答えのない答えながら自分の意見を伝え、現場で介護士の皆さんも対応に困ることが出るだろうけれど、そもそも病院主治医も、在宅主治医も「対応が非常に難しい」と考えていることであり、うまく対応できなくても責められるものではないのだということをよく知っておいてほしいと伝えました。また一般論としての終末期の患者に対する対応の仕方を質問されていたので「それは5分でお答えできないのでのちほど」とお伝えし、まずは実技実習から始めました。

あらかじめケアマネジャーが福祉用具の会社にお願いして一日レンタルしてくれた介護用ベッドを使って私がモデルになって看護師さんからのケアを受けました。驚くべきことに看護師さんのケアではまったく体の軸が動くことなく、カーディガンを脱がせてもらうことができました。体が上下に動くことがないようにしっかりと支えられた状態で、もう片方の手でしっかりマットレスを押し下げて空間を作り、服を脱がせたり着せたりされるのでした。その後、介護のスタッフにも実際に服を脱がせたり着せたりしてもらって実習し、「今のこのアクションで体の軸がねじれたよ」などコメントをして、看護師さんの動きとどう違うのかを体験してもらいました。また体を回転させるケアの時も看護師さんの場合には体の不安定さがない状態で回転するので不安がなく動くことができました。本当に現場の工夫ってすごいなあと実感しました。看護師さんの熟練の技を体験し、今回一番勉強になったのはもしかして私かもしれないとうれしく思いました。

このあとはモデルを交代し、二組に分かれました。看護師さんが教えてくれる実習を行う組と、私がミニ講義をする終末期の実際の声掛けとケアについての講習組とに分かれました。15分くらいで講習し、そして組を入れ替えて再度の講習・実習。講習では「苦しみを抱えている人は、自分が苦しんでいることをわかってもらえるとうれしい」、というエンドオブライフケアでの学びを伝えると、介護士のみなさんはうなずきながら聞いてくださいました。

ケアマネジャー、福祉用具、介護士、看護師の皆さんと顔を合わせて学び、一つのチームになって患者を支えていくチャンスはそんなに多く恵まれません。

今回このような学習を通じて成長していくことができたこと、患者さんの暮らしを思い、一つのチームとしてまとまること、これが私のやっていきたいことなのだと改めて思い、それぞれ忙しい中時間を作ってくれたことに感謝の気持ちでいっぱいです。