二月も半ばを過ぎましたね。
珍しく、熱を出しました。
前に熱を出したのは、ICU勤務のころ。15年くらい前のことですね。子どもはまだ乳児でした。
この熱の数日前からICUスタッフの中でインフルエンザが流行っておりまして、その流れで感染しました。
職場で集団感染なんて今ならちょっとした大騒ぎになることでしょうけど、当時は「そりゃ、こんだけ長時間一緒にICUにこもってたらうつるよね(笑)」くらいの認識でした。
麻酔科医師は熱が出たらスタッフに点滴してもらいながら麻酔機にぐったり突っ伏して手術の麻酔をかけたりしていました。ICUでも当直室で点滴してもらいながら勤務していました。
この熱の時、私はICU当直の日でした。さすがに当直は変わろうかとICUの責任者の先生が言ってくださいましたが、家に帰ると乳児がいて、その世話をするとなるとICU当直のほうがまだ寝れるかもしれないと思い、当直をすることにしました。乳児にうつすかもしれないから帰らない、という意識もありませんでした。
当時は病気で他人からうつされて問題になる病気と言うと、流行性角結膜炎くらい(これはさすがに出勤停止になる)でした。感染症におおらかな時代でした。
ICU当直中も熱がどんどん出ました。当時は抗ウイルス薬がありませんでしたから、ウイルスは自分の発熱で焼き殺すしかない、というのが当時の医師の常識でしたから解熱剤は使わずに点滴で脱水補正するのみ。ICUスタッフ医師の皆さんは熱の私を気遣い、遅くまで残ってくださって私の代わりに仕事をしてくれていました。
他の医師がすっかり帰宅した深夜帯。看護師から患者さんのことをあれこれ指示を要求されたりはするものの、口頭で指示を出すだけで動かなくていいから確かに自宅で乳児の世話をしているよりはまし。
そうして翌日には熱は37℃台になり、そのまま日勤の勤務。勤務の後は19時前に乳児を保育園に迎えに行き、そして家で乳児の世話と家事。
若くて(30代前半)元気といえば元気なんですが、まあ、病原体まき散らしてるし、乳児への感染対策なんて考えてなかったし、あかん行動ばっかり。それでも、「仕事に穴をあけずに働く」ということへの責任感が強すぎて休めない自分だったのです。

書きながら思い出しました。もう一つ、熱じゃないけど寝込んだことがありました。これは大学病院を辞めて、地域の中堅病院で麻酔科医として勤務していたころのこと。これもやはり子供が2歳くらいの頃のことでした。
子どもが吐き下しの胃腸炎にかかり、世話をする私も手洗いをこまめにしていたものの、結局感染してしまいました。
その日は水曜日で私は研修日になっている日。朝から夫と子供を送り出し、私はぐったりと寝ていました。体に力が入らず、「まずい。脱水になってる。」とは分かったものの、力が入らないため立ち上がれないのです。困ったな。救急車を呼ぶほどではないけど、タクシーで病院に行って点滴してもらわないと相当まずいぞ、と思いつつも、体が動かないしどうしようかなあと悩んでおりました。そこに休みの私とランチをしようと産休中で電話をしてきてくれた友人がいたのです。
「今日、休みだよね。ランチでもどう?」「いや、それがさ、それどころじゃないんよ。」ということで彼女が来てくれて一緒にタクシーで普段自分が勤務している病院に連れて行ってもらいました。点滴で力が戻ってきました。
さて、この時は私は翌日にはきっと元気になるだろうなと思いました。でも、こんなやばい下痢嘔吐の感染症になっているのに、勤務していいのか?と思いました。それで上司に翌日の勤務についてどうするべきかと問いました。
上司はやや機嫌悪く「じゃあ、明日休みたいってことね」と言いました。
私は「ちがいます。私はたぶん明日になれば体調的には仕事に出ることができると思います。でも、この感染症を持っていることがわかっている人間を患者と接触させていいのか?という管理者責任について質問しているのです。」と言いました。
このやり取りを数回したうえで上司からやや無理やり「上司命令で休むこと」という言葉を勝ち取りました。
このことを別の友人に話したら私に対して「そんなことは非常識だ」と言われました。「感染症ごときで休むなんて、常軌を逸している」ということです。

また、別の時のことですが、この病院に勤務しているとき、ある医師がインフルエンザにかかりながら手術をしていました。
私は憤慨して感染対策委員長の医師にクレームを訴えました。感染症の人間が出勤したら、こちらまで罹患のリスクを負う、患者も感染のリスクにさらす。あんな感染症の人間は出勤停止にせよ、と言いました。これは今では当たり前のことかもしれませんが、2005年くらいの頃は非常識な言い分でした。
感染対策委員長は困った顔で言いました。「無茶言うわ。そしたら手術止めろってことか?そんなん無理やんか。」
私は「先生は自分ががんになってたとして、命にかかわる病気なのに、熱でフラフラの医者に切ってほしいですか?それとも数日延期になっても体調がいい医者に切ってもらいたいですか?」と問いただしたら無言でした。
当時は「とにかく仕事に穴をあけずに働く」と言うことが大事で、熱でフラフラになって働くのは美談だったのです。

今は本当にインフルエンザにの証明が神経質なほど要求されていますが、インフルエンザだろうがなんだろうが、熱で調子が悪ければ休んで他人に感染させないことが大事です。

今回私は熱が出たのが自分の休みの日だったので遊ぶ予定をキャンセルにしてしっかり寝たので翌日には熱は引いていたので、とりあえず出勤して別室にて事務仕事や患者に合わずにできる仕事をしていました。スタッフとの接触も最低限にし、手洗いをこまめにしました。そして訪問診療に行ってくれていた先生たちが帰ってこられたのを機に自分も退勤しました。

基本的に当院では休むことに罪の意識を感じないように、ということを謳っているわけなので、院長自らそれに背いているわけなのですが、実は翌週もお休みをいただくことからちょっと申し訳なくて、感染症あけでも働いてしまいました。
しかし、やはりこれはよくないよなと思いました。
そして、土日に様々な研修や学会活動があったのですが、体調はいいのですが医療従事者の集団に感染させてしまうリスクを懸念して欠席させていただきました。

これから日本で感染症というものに対して手洗いの励行が当たり前になるように、そして感染症にかかったらきちんと休むように、感染を広げないように自らを隔離するように、これが社会で当然のことと認識されるようになってほしいと思います。