先日、ニュースピックスというネットニュースサイトに取り上げていただきました。
ニュースピックスの記事は有料なのでそれを転載することはできないのですが、お話をすこしまとめてお伝えしたいと思います。7回連載です。

がんなどの病気を抱えた高齢者や、病気の末期にある方に、「覚悟してください」とよく医師が言います。
でも、私は「覚悟は別にいいです」と言っています。覚悟が必要なのは、医療者です。患者さんやご家族に必要なのは、知識です。
これから何が起こるかわからないから怖いわけです。どうなるかわからないから自宅で看取るのも不安だと思うのです。
死は誰しも訪れるものですが、身内の死の経験がないから怖いのです。未知の体験だから怖く感じられるのだと思います。
でも、これから死に向けて体がどのように弱っていくか、どんな症状があるのか生理的な変化やその時に起こる一般的な感情などについて知っていれば、ひどく怖がらなくていいのです。
「すべては自然なことで異常なことではないから、怖がらなくていいですよ。でも、どうしても怖くなったら、連絡くださいね」と患者さんとご家族にはお伝えし、“弱り”がどのように起こっていくのかという知識をきちんと説明していきます。

私が現在従事している「在宅医療」は、「病院に通院が難しい人のための医療」です。
通院できない弱りを持っているということは、時期はわからないながらも死を予想しなくてはならない時期になっているということです。
自宅で介護を受けながら看取られるというと、家族を巻き込み、看取る家族にも大きな覚悟が必要だというイメージでしょうか。
確かに家族に負担はかかります。でも、そんなみんながつらくなることだったら、私だってやりたくないわけなのですが、私が看取ってきた人たちは、比較的表情よく、ご一緒しているご家族も変化に不安をもちながらも、「人って、こんなに静かに、穏やかに死んでいくものなのですね」とおっしゃいます。
もちろん、身体症状のコントロールができていることが大前提です。
患者さんが「苦しい」ともだえ苦しんでいるのにご家族が安らかなお気持ちになれるはずもありません。私にとっても身体症状のコントロールが難しい方の在宅看取りにおいては心につらいものが残ります。数は少ないながらも力不足を痛感することはあり、そういう場合は時を1年くらいの時を経てまたご遺族にお詫びのご訪問をすることがあります。
多くの場合はそこまでつらい状態を放置することはなく、全身倦怠感はあれど、そのまま様子をみることができる程度です。
しんどい、悲しい、つらい、ばかりの仕事だったら、私だってしたくありませんが、実際には、「いいなあ」「楽しいなあ」「うれしいなあ」「この人たちと一緒にいるのはすてきだな」と思うから、この仕事ができているのです。

病院で亡くなるのと在宅で亡くなるのと両者の間に、医療内容ではあまり違いはありません。
しかし、ケアの内容が大きく違います。

どういうこと?と思われるかもしれません。

医療内容というのは、点滴をするとかしないとか。あとは鎮痛薬を投与するとかしないとか。お薬の内容、ということです。これは病院でも在宅でもあまり変わりありません。
ケアの内容は違います。例えば便秘だったら病院でも在宅でも便秘薬を投与します。病院ではしっかり便を出すのを目的に、下痢を作るほどの強力なお薬を使うことが多いです。一方在宅で下痢を作るような排便コントロールをすると、ご自宅の方が便処理や洗濯で疲弊しますので、漢方薬などを使いながら、看護師さんに排便をコントロールしてもらうような状態に持っていくようにしています。
排便コントロール以外のケアについてみてみましょう。たとえば声掛けもケアです。他に心地いいと感じるような音楽や香りを楽しんでもらうようなこともケアです。そばに誰かの気配があるということもケアの一つです。
これらケアについては自宅や施設のほうが手厚いものを提供することができますし、多分満足度も高いと考えられます。

病院は基本的に「医療を提供するところ」であり、患者さんは「治してほしいと思って行くところ」です。ですから、病院では時には「命がもう長くない」と判断できるケースでも積極的治療を続けることもあります。
そして、検査や手術、処置に人手が必要な分、ケアにさく人手がありません。
動くと人手が必要になるので、患者さんにはできるだけじっとしていてもらうほうが病院スタッフとしては助かります。患者さんはベッドの上の安静を指示され、必要に応じてナースコールをしますが、ちょっと歩きたいとか自分で何かをしたいという時に看護師さんを呼ぶのはためらわれます。考えることも動くことも減る環境で、人は弱りが加速し「病人」になってしまいます。
病院で亡くなりいくときも、あまりケアに人手をかけることはできないので、医療行為が必要でない場合にはあまりかまってもらえるものではないことが多いです。
そんなわけで満足度は在宅医療のほうが高いのではないかと思います。ただし、ホスピスや緩和ケア病棟ではケアを重視しておりますのでこの場合は在宅同様心地いいと感じられるようなケアを充実させていることが多いと思います。