【看取りの安心勉強会 第6回】
<食事が入らなくなった場合の対応>
食事が入らなくなった場合、実際にはどう見守るのでしょうか。もう、食べることができなくなった、この状態で食べることのケアがなくなったらもうお世話することはないのでしょうか。食べることはできなくなったし、眠ったり起きたりを短い時間で繰り返していて話しかけても返事をしたりしなかったり。話をするときは調子よく話もするけれど、話ができないときはまったく反応がない、という時期です。
このような頃であっても五感ははっきりしていることが多いのです。「食べる」という楽しみの一つがなくなるので、他の楽しみを作りましょう。
「五感を満足させるケア」を考えていただきます。目、耳、鼻、舌、触覚を満足させるケアです。たとえばあるご家族は「お父さん、コーヒーが好きだから、飲めなくてもコーヒーを入れているんです。香りが楽しめますものね。」とおっしゃっていました。素晴らしいことです。まさにこれが五感を満足させるケアです。ほかには、むくみが出てくると血流が悪くなって四肢末梢が冷えますから温かいタオルでハンドマッサージしてあげると気持ちがいいでしょう。温かい蒸しタオルを首の後ろに置いてあげて散髪屋さんでされるような「ああ、気持ちいい」というようなことをしてあげるといいでしょう。耳は聞こえていますから、好きな音楽を静かに流すのもいいでしょう。返事はできなくても聞こえている時間もありますから、ご本人の参加できるような内容でみんなでおしゃべりするのもいいでしょう。食べなくなっても口の中をきれいにしてあげると、乾きが改善されますしすっきりして気持ちがいいでしょう。口の渇きを癒すのに、ビールをスポンジに漬けて味を楽しませているご家族もいました。
そして一番大切なケア。それは「ただ、そばにいる」というケア。人の存在感が人を癒すのです。子どものころ、風邪で学校を休み、昼間寝て、夕方向こうの部屋でカチャカチャお茶碗のなる音、誰かがキャハハと笑う声に目が覚め、ホッとしたことはありませんか?その空気感です。いつもの空気感そのものが癒しになるのです。べったり一緒にいなくてもいいのです。空気感で十分なのです。ご自身の家だから。
食事が楽しめなくなって「ああ、おいしい」がなくなってしまうのですが、味覚や満腹感の代わりに、一日一回でも「ああ、気持ちいい、うれしい」ということを感じてもらうことを目標にしてケアをしていただければきっとご本人はうれしいと思います。
医療行為はしなくても、見放したり見捨てたりするのではない、見守るのだということを理解していただき、亡くなりゆく方への接し方を知っていただけると、亡くなりゆく方に接するときにむやみに怖いという感じが和らぐのではないかと思います。