先日、高齢者とのかかわりで「高齢者だからといって特別なことはなく、いつも通り丁寧な接遇が大切だな」と思ったことがありました。

いつも診療に行っている施設から連絡がありました。内容は

・〇〇さんの右前腕の皮膚が表皮剥離した(高齢者は皮膚が弱く、べりっと裂けることがあります)
・ステリストリップという医療材料(皮膚を合わせるテープ材)で合わせたが、うまくあわなかった
・以上、報告です。

私はあわてて「いや、それ、報告ですじゃないでしょう。往診でしょう。」と言いました。
施設職員は「いいえ、処置は終わってるので往診は要らないです。報告で結構です。」と言いました。
私は「だって皮膚がうまく合わさっていないのでしょう?」
施設職員「痛がるし、暴れるし、じっとしていないのです。」

なるほどなあ。〇〇さんか。
もうすぐ100歳になるこの方は、ずっとベッドで静かに寝ているときには想像がつかないくらいにお元気で車いすを自分で自走して食堂を移動し、活気があります。
自室で寝ている時と、食堂でご飯を食べている時とではまるで別人です。基本的にお元気な方。処置をしようにも抵抗が強いのでしょう。
とにかく、スキンテア(高齢者の皮膚の裂け)は初動が肝心。施設が忙しい時間帯と知りながら往診しました。
行くと食堂でお食事の真っ最中でした。
施設職員は車いすをテーブルから引いて、処置室に連れていこうとしましたのですぐに制止しました。
「ちょっと待ってください。」
食事中に突然テーブルから離されたら皆さんはどう思われますか?
私は短気なので、自分が食事中に邪魔をされたらすぐに立腹して怒鳴りつけるのではないかなと思います。
私は〇〇さんのそばにひざまづいて言いました。
「〇〇さん、今、手を怪我してるのを知ってますか?」「知らん」
「ひどくけがをしているので、そのけがの治療に来ました。医者です(基本的に毎回初対面状態なので、毎回名乗ります)。治療をさせてもらいたいので、食事中にすみませんが来てもらえませんか?時間が経つと皮膚がもどらなくなるのです。早く治療をするときちんと治ると思うんです。お願いできますか?」
このようにお願いすると、不服そうにうなずいてくれました。
そこで急いで処置室にきてもらいました。
傷を見てびっくり。 いや、処置、雑。
これは施設職員をののしっているわけではないのです。さぞかし暴れたのだろうなあ、このようにしかできなかったのだろうなあと思いました。
裂けた皮膚と皮膚は合わさることなく、ばっくり裂けたまま。
そこをステリストリップで合わせようとべたべた貼っている。そもそもは内出血があって「裂けてしまいそう」ということでフィルムを貼って保護していたところが、フィルムの下でバックリと裂けてしまっていてもともとのフィルムも残っている(フィルムを剥がそうとするとさらに皮膚をめくってしまう懸念がある)。それを傷にくっつかない良いガーゼでぐるっと巻いて保護しているという状態でした。

まずはフィルムを剥がすのですが、医療用のフィルムの剥がし方は普通に剥がしてはいけないということを職員さんは知りませんでした。
私も知らなかったのですが、研修に行って教えてもらいました。めくるように剥がすのではなく、フィルムを引っ張りながら剥がすのです。そうしないとフィルムを剥がすときに新たなスキンテアを生むのです。
フィルムを剥がした後は、傷を貼り付けようとして貼られたステリストリップをいったん剝がさないといけません。
すると痛がって「やめてーな」と暴れだしました。
職員さんが二人で押さえつけてくれます。「すぐに済むから!」と職員さんがなだめてくれるのですが私は「いいえ、すぐには済みません。でもなるべく早くするように頑張ります。〇〇さん、ご協力いただけますか?」そうお願いすると、また不服そうにうなずいてくれました。
そして、痛がるのでゼリー状の局所麻酔薬をたらりと傷にたらしました。
局所麻酔が効くのを待って、ステリストリップを剥がしました。痛がるときは謝って麻酔を塗り広げて痛くないかを確認して進めました。
すべての医療材料を剥がしてみると、皮膚と皮膚の間は1㎝程度離れていました。消毒して皮膚を寄せようとしますが皮膚が縮みだしていてなかなか寄りません。
しかし端のほうから丁寧に合わせていき、合わせたところにステリストリップを新たに貼り、最終的には約1㎜程度にまで傷は寄ってきました。
このまま大きなテープで固定しようとしたところ、施設職員が「感染は大丈夫ですか」と誠に最も懸念すべきことを言ってくれました。
「膿が出てきたら剥がしますね」とおっしゃったので、「剥がすときは呼んでください」とお答えしました。
剥がすときの目印として、テープ材に傷の形を模写して、剝がすときの方向を矢印で描きました。
そして抗生剤をすぐに飲んでもらいました。
〇〇さんに「ご協力ありがとうございました。」とお礼を言ってまた食堂に戻ってもらいました。

要は・・・高齢者だからといって、わからないと決めつけずに、ひとつずつ了承を得て処置すると押さえつけなくてもいいということです。
力を入れて押さえつけようとしていたのをやめてもらって肘関節と手首の関節を下から包み込んでもらって保定してもらっていました。
この保定なら優しく包み込まれているようであまり嫌がられないのです。
食事から離席をお願いするときに許可をもらうこと、すぐには終わらない処置に協力してほしいこと、なるべく痛くないようにすること、押さえつけずに包み込んで保定することなど、これは高齢者にかぎらずどんな患者さんに対してでもするべきことです。
子ども相手でも大人相手でも高齢者相手でも、です。
人と人が関わり、快くないことを受け入れてもらう時のやり方は年齢や理解力に関わらず丁寧に接遇しなくてはいけない、そんな「当たり前」のことを改めて感じました。

自分がされたら嫌なことをひとにしない、自分がしてもらいたいと思うことをひとにする、その当たり前は当たり前ではないのです。施設という比較的みなさん相手を大切にして接している場所でも「医療」になると、無茶なことをされてしまっています。「医療」のことだったら相手を無視して何をしてもいいということではないと改めてお伝えしたいところです。