【看取りの安心勉強会 第7回】
<耳は最後まで聞こえている>
私たち医師は「耳は最後まで聞こえている」と上級医から教わります。しかしこれに対して私はかつて懐疑的に思っておりました。死んだこともない、生きている人にどうしてそうわかるのでしょうか。
実は私の患者様で亡くなった後も耳が聞こえていたらしい人がいます。その方が亡くなる直前、施設のヘルパーさんが亡くなりそうだということで出入りを頻繁にされていました。15分前に見に来たときには息があったのですが、次に来たときには呼吸が止まっていたそうです。呼吸が止まっていることに驚きながらもこのヘルパーさんは大声で「○○さん!息子さんがここに向かっているからね!もう来るからね!がんばってよ!」と言いました。すると、患者様の体がびくっと動いたのだそうです。ヘルパーさんは「あ、息が戻るかな!」と期待したのだそうですが、そのまま呼吸は戻らず亡くなられたそうです。
この話から「本当に最後まで耳は聞こえているのだ」ということと「ほんの数分であろうけど呼吸と心臓が止まっても酸素が残っている間は大脳が生きている可能性が高いのだ」ということが実感できます。
ですから、お亡くなりになってもなお数分はご家族の声が聞こえている可能性があります。お亡くなりになったとしても十分にお声掛けをしてお別れをなさってくださいねとお話しします。「呼吸が止まった!先生!すぐ来て!」ではないのです。その時間は大切な時間としてお声がけをしていただけたらと思います。
また呼吸が止まっても数分大脳が生きていて感覚があるとすれば、この時点でもう効果がないと思われる蘇生行為としての胸骨圧迫(心臓マッサージ)をすることがどれほどつらいことかと思うのです。胸骨が3cm程度沈み込むほどの強い力で胸骨を圧迫されたら、きっと痛いだろうなあと思うのです。最後の感覚がその痛みであったらきっとつらいと思います。急な心停止であれば有効かもしれませんが、老衰や悪性疾患などで「予想される死」の場合、このような胸骨圧迫は避けることができれば、と思います。
患者さんは眠ったり起きたりを短い時間間隔で繰り返しながらまだらに意識があり、切れ切れによく聞いているなあと思います。ですから、楽しい雰囲気でお見舞いしてくださいねとお伝えしています。最初にお願いした「お別れをしてくださいね」というお話にあるように、患者さんは返事をしなくてもよく聞いておられます。時々ご家族に患者さんの目の前でご説明をするのですが、ご本人に向かって「聞いてらっしゃいますよ、ねえ?」とお声がけすると、手を挙げて「聞いている」とジェスチャーする方がほとんどです。