先日中京薬剤師会で10分ほどお話をさせていただく機会をいただきました。
持ち時間を超えておはなししてしまったのですが、薬剤師の先生が在宅医療の現場で頑張ってくださっていることに感謝する気持ちを訪問診療医としてお伝えできたのではないかと思います。
訪問薬剤管理指導とは、薬剤師の先生が患者さんのご自宅までお薬をお届けし、お薬の飲み方を指導したり実際に飲めているかなどについて確認したり副作用の有無をチェックしたりなど、患者さんとお薬について生活レベルからしっかりとみていただくお仕事です。
「訪問薬剤管理指導あるある」という項目で、薬剤師の先生にお聞きした「訪問薬剤管理指導でお困りのこと」についてお話をしました。
玄関先で追い返される。配達だけしてくれればいいという患者が多い。
薬剤カレンダーにセットはするが、残薬などのチェックができていない。
独居のことが多い。
認知症患者の対応に困っている。指導をしても通じているのかどうか不明。
自分で薬を取りに行けないから薬局が配達してくれるし、薬さえもらえればそれでいい、という患者さんは多いのです。
これに対しては主治医と相談してお薬カレンダーを設置し、お薬カレンダーへのセットすることを口実に家に上がらせてもらって残薬のチェックをするようにしてはどうでしょうか?と提案しました。
他人を家に入れたくてガードが固く、トークにも乗 ってこない患者さんもいますよね。世間話にも乗ってこない患者さんには、専門職トークで突破口を探すのはどうでしょうかと提案しました。
たとえば「漢方薬の『~湯(とう)』というお薬、たとえば葛根湯なんかは白湯で飲むと効果が高く、『~散(さん)』たとえば五苓散、なんかは冷たいお水で飲むと効果が高いのですよ」みたいな専門職マメ知識をお知らせすると薬剤師の先生への尊敬の気持ちも高まりますよね。
私自身が漢方薬を処方してくださる診療所の薬剤師の先生にこのマメ知識を教えていただいてそこのクリニックがますます好きになりました。専門職ならではの強みを生かしていただくと、単なる薬の運び屋から頼もしい専門職になるのではないかなと思います。
さらにお薬カレン ダーにセットはできるけれど、残薬をチェックしようとしてもさせてもらえない薬剤師の先生もいらっしゃると聞きました。「お薬、飲めてますか?」とお尋ねしても「大丈夫です」と答えられてしまっておしまいになるということです。残薬をチェックするときは「大丈夫ですか?」とお尋ねするよりも「お薬が余りすぎてお困りではありませんか?」とお尋ねすると、患者さんは「余っています」と答えてくれるようです。
患者さんのサイドからみると、お薬が余っている言うとと叱られるのではないか、という懸念からお薬が余っていて困っているのを解決してもらえるという期待感に、こちらからの言葉がけ一つで変わります。
さらにお薬が飲めていないという患者さんに「だめですよ」という対応、これは一番ダメ対応です。
お薬が飲めていない、余っているという人は「飲めない」から「飲んでいない」のです。なぜ飲めないのかを一緒に考えて対策を考えてあげる必要があります。
剤型(錠剤、散剤、水薬など)が飲みにくさの原因なのか、昼のお薬がうっかり忘れで抜けがちなのか、認知症で飲み忘れるのか、そもそも内服しなくてはならない必要性を認識していないのか。「先生に相談して飲みやすくなるように考えてもらいますね」と飲みにくさについて専門職として支援しますよ、という態度でお話ししてくださいと説明しました。
独居の方の場合、「体調が悪いから訪問しないでほしい」「元気で外出がちで患者さんとなかなか会えない」「大丈夫だからもう来なく ていい」などしっかりしているが故の拒否がしばしばあります。この場合はお元気だから実際訪問薬剤管理指導が必要ないのかもしれないですね。一旦訪問薬剤管理指導を中止したとしても、「あなたの薬剤師」であり続けることを強調してかかりつけ薬剤師としてしっかりとかかわっていただきたいと思います。家に上げてもらいにくいこともありますが、短時間でも家に上げてもらって専門職としてのチェックをしていただきたいと思います。
独居で認知症が進んでいらっしゃるかたもおられます。認知症の方も拒否が強いことが多いです。認知症だから忘れるからと対応がずさんになってはいけないのです。確かに記憶は抜け落ちるのですが、感情は残るのです。私たち若いものでもこういうことあり ますよね。
「あの人、嫌な人なんですよ」「何かあったんですか?」「えーっと、なんだっけ。なんだっけかな。忘れたな。でも、すっごく嫌なことを言われたんですよ。なんだっけ。」
このように記憶が抜けても感情は残るのです。そして認知症の人の場合、その後いいことをしても、記憶の上書きがされないので、いったんこじれると修復は相当困難になります。また認知症の人は「自分が馬鹿にされている」ということについて非常に敏感です。
いじめられることが少ない人はかなりの意地悪をされても「なんだか機嫌が悪いのかな」くらいに思う鈍感力が強いのですが、いじめられっこは自分がいじめられていることに敏感です。同様に認知症の人は自分の記憶の欠落とそれに付随する失敗について敏感になっていて馬鹿にされることに対して敏感なのです。患者さんに対して敬意をはらい、丁寧な対応が必要です。
認知症の方にも私は丁寧にお薬の説明をするのですが、そんな説明内容は1分後には忘れられています。でも、「この先生はちゃんと説明してくれる」「なるほど、そんなお薬なのか、飲んでみよう」という気持ち、感情は残ります。
覚えていなくても説明は必要なのです。
このようなお話をさせていただきました。
この話のあと、訪問薬剤管理指導をまだしたことがないという薬剤師の先生が「やってみたい」と言ってくださいまして、まさにこれが何よりうれしいお言葉でした。
私たちが訪問サービスをし、患者さんの生活を高める仲間として連携し、楽しそうに働き、楽しそうに集い、その楽しそうな様子にどんどん仲間が集まってきてほしいと思います。
薬剤師の先生がたが訪問指導をしてくださると患者さんの体調はあきらかによくなります。本当にいつも助かっています。いい仲間がどんどん増えるといいなあと思います。