Okayama Home Clinic

お知らせ

おうちの力

 先日、「今日退院したいという患者さんがいらっしゃるのですが、訪問診療を受けてもらえませんか」というご依頼がありました。「今日言うて、今日訪問に入るの?あははは。いいですよ。行きましょう。」とお答えしました。ところが当法人のゆうりん訪問看護ステーションは、管理者の人柄がどんどん人を引きつけてご紹介がたくさんたくさん集中しており、てんてこ舞いしております。しかも多忙な月末です。「今日言うて今日訪問に入ってください」とお願いしようものなら、般若のようなお顔になりそうなので、ほかのステーションさんにお願いすることにしました。
 1件目のステーションさんは「先生、うち、お休みの人が続出していて受けられません。」と断られました。2件目のステーションさんは「ええ?今日?あははは。ほんとですか?あははは。管理者に相談しますね。」ということでした。折り返し電話がかかってきて「あははは。岡山先生ですか?あははは。」と笑っているので「ダメだったかなあ」と思っていたら「いいですよ。あははは。」と明るくお返事いただきました。あまりの無茶振りに笑いが止まらないご様子。いやはやすみません。当院も無茶振りにあきれつつも、「こんな無茶を受ける医療機関である」ことを大切にしているので、明るく笑いが止まらない訪問看護さんを頼もしく感謝するのでした。
 また、訪問薬剤ではいつも力強く私たちを支援してくださる薬局さんが受けてくださるということでした。
 ご病状をお聞きするとかなりの重症。お聞きした病状ではご自宅に帰る車の中で呼吸が止まるかもしれないと思い、急遽退院前カンファレンスをしていただきました。退院前カンファレンスは初診に相当するものですから、仮に道中で呼吸が止まっても、私が死亡診断をすることができるのです。この退院前カンファレンスが行われずに道中で呼吸が止まった場合は、元の病院にもどって死亡診断をしてもらわなくてはならなくなります。

 退院前カンファレンスに出かけました。すると意外にお元気。お話をされますし、点滴もお薬も要らないとおっしゃいます。これは退院当日の往診をしなくてもよさそうかなと思われました。看護師さんに「意外と元気そうですね。」と言うと、首を振って「朝まではほとんど意識もなく寝てばかりでした。帰れるよ、と言ったとたん、目が輝いて、すごくしっかりとしてきたんですよ。」とのことでした。

 そして退院翌日に訪問しました。退院当日は何も口にされずに一晩すごされ、「必ず飲んでくださいね」とお願いしていたお薬も飲んでいないということでした。「では私と一緒にお薬を飲みましょうか」とお薬を飲んでもらうことにしました。私は起き上がるのはできないのではないかと思っていましたが、訪問看護師さんがベッドの背上げをしたので、そのまま様子をみました。お薬を口に入れ、吸い飲みでお水を飲んでいただくと、むせることなくごくごくとたくさんお水を飲むことができました。さらに「何か召し上がれるといいですね」とあれこれゼリーやプリンなどはどうかとお話ししていると「私はお粥が好きです。お粥を食べてみようかと思います。」とおっしゃいました。食べたいというお気持ちがあるということでした。
 背上げした姿勢がかなりしっかりしているので、もしかしたら座れるのではないかと思い、お声がけしてベッドから足を下ろしてもらって腰かけてもらいました。すると、しっかりと支えなしで座ることができるのです。看護師さんが支えて立ち上がらせてみると、お尻のほうに重心が残ってしっかりと一人で立つことはできませんでしたが、支えがあればなんとか立てるのでした。

 前日には「看取りのための自宅退院」と言われていました。ところがおうちに戻ってみると水をごくごくと飲み、食べたい気持ちがわき、しっかりと姿勢を保って座れるようになったのです。これは看取りどころではなく、リハビリを導入して生活をもう一度立て直すことができそうです。
 もちろん病院での治療があったからこそ、生死の境から回復できたのではありますが、いったん治療はほぼ終了となったものの、病院ではもう食べようとせず目を開けることもほとんどなく、残された時間はわずかだと考えられていました。それが自宅にもどってみると生きる力がもどってきたのでした。表情よく笑い、そしてお子様方の愛情に感謝して涙され、生き生きとお話しされるのでした。

 ご病状としてはやはり重症であることにはまちがいありません。しかし当初予想されていた「今日か明日か」という状態ではなく、病気を抱えながらなんとか暮らしを取り戻せるのではないかと考えられる状態のようです。

 私の大好きな在宅医療の現場は、死を間近にしながらも、そこにある生を大切にする現場です。

おかやま在宅クリニック
075-252-5110