Okayama Home Clinic

お知らせ

食事をしたいのにできないとき

高齢者で嚥下力が低下する人はいます。

誤嚥性肺炎を繰り返すのです。症状が強い時やご家族が希望する場合は入院していただきます。ただ、病院でも自宅でも抗生剤投与という治療方針には変わりはありませんので、ご本人やご家族が希望する場合には自宅での療養を続けます。

水分を飲むとゴホゴホとむせこんで誤嚥性肺炎を繰り返している方がいました。
飲み物は飲みたがるものの食事は用意してもほとんど手を付けていませんでした。
その状態で誤嚥性肺炎をまた起こし、いつものように抗生剤治療をしていました。それまでは高カロリーのジュースのような薬品を飲んでいただいていましたが、むせこみも強く、肺に垂れ込んでいるので、高カロリーの飲む薬品も中止にし、水やイオン飲料だけを飲んでいただくようにしました。ご家族は長い経過の間に看取り状態であることは理解され「自然に」と望まれました。
抗生剤治療をしていますが、それは救命のためというよりは、炎症をそのままにすると体の消耗が激しくつらいので、緩和ケアとしての治療であるとご家族には説明しご理解いただいていました。このころ、口にするのはわずかな水分のみ。看取り状態として皆が認識していました。

ところが、ある日「水とイオン飲料だけではお腹がすいてたまりません」とおっしゃりテーブルで食べ物が出てくるのをスタンバイしていると連絡が入りました。最初は支援者は「食べる許可が出ていない」と説明し、なだめすかしていたのですが、2時間も粘られてついに連絡してこられました。肺炎の治療が奏功してきたのでしょうか。「食べたい」という体力がもどってきたのかもしれません。
その前に診察した時の様子では、食べることができる状態とは思えませんでしたが、「食べたい」という強い気持ちがあることに希望を感じました。とはいえ支援者が一人で食事をさせて、咽詰めやむせこみで困ったりすると気の毒なので往診して緊急事態に備えることにしました。

行ってみると、「医師が来れば食事ができる」とばかりに食事を待ちかねています。食事の内容はこの方をよく知る家政婦さんがとろみをつけたお粥とほぐした鮭をとろみで和えてくださったものでした。これなら食べられるかも・・・。食事中、たまたま膝がかゆいと膝をみながら食べてくれました。ナイス!この下向きの姿勢はむせにくいのです。途中からTVを見たがったのですが、TVを見ると、顔が上を向いてしまってむせこみやすい姿勢になるので、TVは禁じました。食事中のお茶は禁じました。お茶を飲むと途端にむせこんで食事ができなくなることが予想されたからです。食事後の口腔ケアでうがいのために水を用意すると飲もうとしてやはり盛大にむせこんでいました。口腔ケアは歯ブラシでして、そのあとはスポンジで拭き取ってもらいました。

食事後はベッドに寝ていただき、側臥位法(そくがいほう)でイオン飲料を飲んでもらいました。側臥位法ではむせこみはほとんど起きないのです。咽頭側壁に水分をたくさん溜め込むことができるため、と説明されています。しかし私は単純に「座位で飲水すると水が上から下に速やかに流れてしまってその速さに嚥下が追い付かない一方で、側臥位では水はゆっくりと流れ自分のペースで嚥下ができるから」と説明してます。

食事をしてのどが乾いていて、イオン飲料を側臥位法で満足するまで飲み干しました。むせはほとんどありませんでした。

「食べたいなら食べていい」とはいうものの、実際には「食べられる状態ではない」という方はいらっしゃいます。それを食事形態や体位の工夫で相当食べることができるように導くことが可能です。それはやはり専門職の知識と経験であるといえるでしょう。

単純に「危険だから」と禁じるのではなく、一方で単純に「食べたいなら食べていい」と進めるのではなく。
「熱意と知識と経験」で支援するチームであるということが、「もう食べられない人」を「なんとか食べられる人」にするのです。

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