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お知らせ

学生実習

ありがたいことに当院には近隣の大学から学生さんが実習に来てくださいます。
来てくださると私自身の勉強にもなります(教材をつくったりなど)し、スタッフも刺激を受けています。
学生さんと振り返りをすると、自分が無意識にしている支援が「ご本人やご家族の表情を和らげている」という学生さんからのフィードバックをいただき、面はゆい思いもします。
学生さんの同席の時に、たまたま患者さんの体の状態が悪くなっていて、ご家族に看取りの安心勉強会をするという場面がありました。

定期の訪問時に前回よりぐっと体調が悪くなっているのをみて、まずはご家族のお気持ちを聞き取りました。どんなふうに思っておられるのか、どんなことを不安に思ったり、何を困っておられるのかなど。
「本当に食べられないんです。このままだと体力がどんどん落ちてしまうと思うんです。」表情は暗く、硬く、そのようにご家族がおっしゃるのを受けて「そうですね。私もそれが心配です。ちょっと驚かれるかもしれませんが、もしかすると残されている時間がとても短い可能性があります。病気の進行が・・・という意味ではなく、『食べられない』ということそのものが残り時間を短くしているかと思うのです。人がジャングルで一週間遭難すれば命が危うくなるのと同じように、一週間ほとんどものを食べないでいれば命の時間が尽きてしまうということです。それを聞いて驚かれるかもしれませんし、怖い、と感じられるかもしれません。そこで、お時間をいただいて、食べられなくなってきた人にどうしたらいいのか、どうしたら喜んでもらえるのか、体にどんな変化があるのか、などをお伝えして安心してみていただけるようなお話をしたいのですが、いかがでしょうか。」

このようにお話をして、午後から時間を作って看取りの安心勉強会「これからの過ごし方」を実施しました。

看取りの安心勉強会「これからの過ごし方」はお別れをしてほしい、弱り、食べられない、見守り、体の変化、最後の時 についてお話しするものです。

看取りの安心勉強会「これからの過ごし方」の前に、今困っていることを尋ねるとやはり「食べられない」ということでした。「食事を食べられなくなったこの方が、どうしたら喜んでくれるのだろう」ということを考えるために「この方がどんなお人柄かを知りたいのですが、どういうことがこの方のことで印象的でしたか?」と尋ねたところ、ご家族は顔を見合わせて「別にー。普通の人やけど・・・。印象に残ることって・・・ないなあ?」そう言いました。そしていかにその方が印象に残らない、普通の人かということをたくさんお話をしてくださるのでした。いつもいつも毎日毎日同じことを繰り返す人だということ。その中からどんどんその方のいいところ、素晴らしいところ、同じことをきちんと繰り返す誠実さ、などが語られました。寡黙で家族がいろいろ話しかけてもうるさがって答えないことなども。

私は反復しながら聴きました。そして「そうか。それだったら、この方が何をしたら喜んでくれるのかを考えたいと思ってお話を聞いていたんですが、ご家族にもどうしたらこの方が喜んでくれるかはわからないって感じですかね」とご家族がおっしゃるのを反復して言いますと「わからないですね。どうしたら喜ぶでしょうね。まあ・・・多分家におりたいやろうとは思いますけどね。病院のほうがいいのかな。看護師さんが優しいし。でも多分家におりたいでしょうね。」

やりました。この言葉を引き出したかったのです。私が「きっとおうちに居たいでしょうね。奥さんもいるしね。」と言ってはいけないのです。そうすると、揺れる奥さんの心を私が止めてしまって「先生があんなこと言うから病院に連れていけなかった」と後々言われてしまうのです。そうではなく、ご家族から「家に居たいんじゃないかな」を引き出すのが大切なのです。

そして、ご家族のお気持ちを聴いた後、「これからの過ごし方」勉強会をしました。

勉強会のあと。ご家族さんたちはニコニコして「まあ、食べへんのは、しゃあないなあ」「まあ、2日前くらいからふっきれてるけどなー」「食べへんもん、ほな、さよか~って感じやなあ」とおっしゃっていました。

先ほどまでの暗く、硬い表情とは変わって、リラックスして「いつも通りやんなあ」というお顔でした。

そう。亡くなるからといって悲壮になることはないと思います。もちろんそばにいるものは大変です。気がかりも多いです。それでも「いつも通り」を心がけ、「どうしたら喜んでくれるかな」と、「五感を満足させるケア」を大切にすることを知っていただけると笑顔になるのです。

学生さんにも「勉強会前の表情、覚えていますか?勉強会後の表情はどうでしたか?」と尋ねると、その前後の表情の変化に驚いていました。「あなたの家族がもうすぐ亡くなります」という悪い知らせを聞いたのに、表情が和らぐのです。悪い知らせを伝えるときに、SPIKESのプロトコールを用いながら「最善に期待して最悪に備える」ということを伝えることがどれほどご家族の心を和らげるかということです。

この勉強会前後の変化は、私が特別な人間だから起こることではなく、私が主宰するコミュニケーション講座を受講された皆さんが経験されています。理論に基づいて、実戦練習を重ねると、みなさんできるようになっていらっしゃいます。

そして学生さんも患者さんやご家族さんの表情が和らぐことを見て、ご自身の思いを語ってくださいました。それは私にととっても学びになるなと思うことでした。

学生さんに見学していただいたことで、自分のいつもの実践を言語化して解説し、自分自身にとってもいい振り返りができることになりました。人に教えるということは自分自身が学ぶということだなと思います。


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