多職種連携という言葉をごぞんじでしょうか。
この業界にいるとその言葉があまりに当たり前に使われるので皆さんご存知の言葉のように思ってしまいますが、この言葉の知名度はどれほどなのでしょうね。

私自身は自分が在宅医療を始めるまでその言葉を知りませんでした。
前の職場である長岡京市千春会病院の菊地理事長先生が、日本慢性医療協会という協会が主催していた有料の講習に出席させてくださりそこで在宅医療について系統的に広い範囲を網羅する内容を2日に渡って聴講することができ、そのときに多職種連携の重要さを知りました。
菊地先生の寛大さ、先見性の高さを実感します。
その日慢協の講義で日本の在宅医療を語るときには必ず名前を聞くような先生方から今後の日本の進む道を教えていただき、その方向性に向かってやってきたわけです。

多職種連携は言葉の上でこのように知ったわけですが、実際の連携は千春会病院で行いました。
毎週30分程度、訪問診療医、訪問看護師、訪問介護士(ヘルパーさん)、ケアマネジャーとミーティングすることを始めました。一部のスタッフは当初面倒に感じていたようですが、徐々にこのミーティングの力を実感するようになりました。
ヘルパーさんの現場の生の困りを知ることができ、それに対して医師や看護師から意見が出、医師の提案に対して看護師やヘルパーさんが知識を増やしていったり反対意見を言ったり、ケアマネジャーからの提案やケアマネジャーに対する注文など双方向のやりとりがあったり。
訪問診療を受けていない患者のことでも相談に乗ったり、ざっくばらんに話し合うことを繰り返すうち、出席するスタッフたちの知識が飛躍的に増えましたし、医師も介護スタッフを身近に感じることができるようになりました。
ヘルパーさんたちの現場の困りを実感するようになり、介護職員に対する看取りの講習を始めるようになりました。

一般の皆さんはこのミーティングや講習について「当たり前」に感じられるかもしれませんね。それが実はまったく当たり前ではないのです。
医師とヘルパーさんたちが同じテーブルで話し合うことはまずありません。ケアマネジャーさんとミーティングすることはあっても、現場のヘルパーさんからの生の声を聞くことはほとんどありません。
それを医療と介護の融合を目指す千春会病院ではごくサラリと実行されていたのです。
とは言え、千春会病院でも当初面倒くさいと皆感じながら在宅医療部長のアイデアに渋々付き合いだしたわけで、言い出した部長が退職した後、ミーティングもやめるかということも提案されたのですが、結局参加者が「このミーティングが楽しみ」と思っていることがわかり、続けることになりました。

今、中京区で在宅医療をしていてヘルパーさんとの協働をする機会を持つように努めていますが、なかなか、まだまだです。医療、看護、介護との連携はまだまだ未熟です。単に国の決めた書類のやりとりが多いのが実情です。それでも医師会ではワークショップの開催などを通じて少しずつ顔が見える関係をつくる努力をしているところです。

訪問診療と訪問薬剤管理指導の連携も大切な多職種連携の一つです。薬局と連携するときにはなるべく私は薬局に実際に行って、関係づくりをするようにしています。患者さんは大抵飲みきれないお薬を家の中に抱えていますからそれを持って薬局に行き、これから一緒によろしくとご挨拶をします。医師が熱意を込めて患者さんについて申し送りをすると薬剤師の先生も患者さんについてとても熱心に考えてくださいます。

顔の見える関係が患者さんのために動こうという関係につながって行きます。人の顔を覚えることがとにかく苦手な私にとってはかなりの負荷になっており、何度もご一緒にお仕事した方に「初めまして」と言ってしまうミスはあまりに多くて穴があったら入りたいほどですが、なんとか苦手なものを克服して多職種が連携して地域の医療と介護がきめ細やかになるようにと努力しています。