当院では病院主治医と在宅主治医の二人主治医制、またはそれに緩和ケアの医師も含めた三人主治医制をお勧めしています。
これまでの病院の医療で治療を目指す積極的治療を続けている間でも自宅における諸症状の緩和や体調維持などの目的で在宅主治医をもつことは心強いことだと考えるからです。

積極的治療が終わってから緩和医療、積極的治療が終わってから在宅医療に変更するのではなく、積極的治療をしている間から生活の質(QOL)を上げるための治療をあげることが積極的治療も長く続けるためにいい方向にはたらくと考えていますし、また、積極的治療を続ける体力がなくなって病院に行くことができなくなっても見捨てられた感情をもたずに積極的治療を終了しやすいということ、これらが患者さんやご家族のお気持ちを楽にするのではないかと考えています。

病院に通っていて主治医から「もう積極的治療をする体力がないと思います。緩和医療に移行してください」と言われて緩和医療を受ける場合の気持ちを想像してみます。
これまで一緒に治療に熱心にしてきてくれた先生が、いきなり自分をもう治療しないと言いだした。伴走してくれていたはずの主治医が背中を向けて去っていこうとしている。
このときに穏やかな気持ちで受け入れることができる人は多くないと思います。希望をもって治療していたはずなのに、もう希望はないのかとも感じるかもしれません。

一方で在宅に二人目の主治医がいる場合、積極的治療を受けている間のつらい症状を緩和するためのスタッフが訪問診療医のほかに訪問看護師もついていることが多いでしょう。これまではしんどくても朝まで待って病院に電話して受診していたことが、夜でも電話で相談できる心強さはきっとすぐに実感していただけると思います。ときには看護師さんが来てくれて様子を見て在宅主治医に連絡してくれることもあります。こうして在宅医療スタッフと信頼関係ができている中で「積極的治療の終了」についても考えを深めていくこともあるかと思います。
病院の主治医から積極的治療の終了を告げられた場合も、引き続き信頼関係がすでにできている在宅医療スタッフがついています。多くの場合主治医から積極的治療の終了を提案する前に本人が「もうしんどくて通えない」と自ら積極的治療の終了を申し出ることもあり、この場合は主治医に見捨てられた感が大きく緩和されます。

このように、在宅医療スタッフがついていることで症状の緩和のみならず治療の終了に伴う絶望感の緩和にも役に立ちます。

この複数主治医制、とてもいいと思うのですがあまりまだ広まっていません。これは病院主治医と在宅主治医のコミュニケーションの難しさが原因であると考えています。
在宅の主治医は病院の主治医に遠慮するし、病院の主治医は在宅の主治医の症状緩和治療でどういうことをしているのかよくわからず不信感がある、あるいは在宅医療の主治医に無関心であるなどの状態が多いかと感じています。

それでも病院の機能と在宅医療の機能の双方のよいところを活かしあうために情報提供を密にして複数主治医制を定着させていけるといいなあと思います。