<弱ると食べられなくなる>

人が亡くなる時、その病気や状態により経過は様々ですが、共通していることがあります。それは食事が入らなくなれば人は死に至るということです。それは当然のことで、若くて元気な者であってもジャングルで一週間も遭難すれば命が危うくなるわけですから、病気の方でも食事が入らなくなれば終末期に入るということです。

従って病人を看病する家族は食事を食べさせなくてはという思いが大変強くなります。しかし、食事が入らなくなればそれはもう食事が入らないときなのです。

食事が入らなくなると私は「無理に食事を口に入れようとしないでください。むせて誤嚥性肺炎を作るなどトラブルにつながります。」と説明します。このように説明をすると「先生、じゃあ、食べられなくなったら食べさせないって、それで大丈夫なのですか?」と尋ねられます。そのときは「もちろん人は食べなくなれば命が危うくなります。若い元気なものでもジャングルで一週間遭難したら命が危うくなります。ですから、おっしゃる通り、もう、大丈夫ではない時期に・・・・来たのです」とお答えします。これはショックですよね。もう大丈夫ではないのだ、と言われてしまう・・・・。

当然「では治療法はないのか?栄養点滴はだめなのか?」という疑問が出ます。それに対してこの状態になると死に向かうのは生理的であり、治療ということをしてもあまり効果がないことをお伝えします。点滴をしても効果がある場合もあれば効果がなく逆に苦しめる場合もあります。

脱水があるときに点滴をすると確かに脱水が解決されて楽になります。しかし、食事が入らない状態で水を血管内に入れると、浮腫(むくみ)につながり、褥瘡(床ずれ)や息苦しさの原因になります。食事が入らないから点滴して元気になるかと思っても浮腫ができ、苦しみを医療が作ってしまうことになります。したがって点滴は一時的に脱水が強いときには使いますが、浮腫が出てくるようであれば止めるということをご説明します。

食べることができなくなり、点滴をしないことで「そんな風に放ったらかしにされるなんて、ひどい」と感じられるご家族もいらっしゃいます。ですが、治療のすべがない状態で積極的にできることがない場合、放置するわけではなく、点滴で不要な水分を過剰に入れるよりも苦しみを少なくするのです。

特に高齢者は自分の体との付き合い方が上手で(それだから長寿になったともいえます)、自分の体がカロリーや水分を必要としない時には、不要なカロリーや水分を求めないことが多いです。「身体が旅立ちの支度をしておられるようですね」とお伝えしています。