本日は、

新たに在宅医としての一歩を歩き始めた先生に

ちょっと先に在宅医生活を始めている私からの思いを伝えしたいと思います。

いろんな方がいます。アルコール依存の方、タバコ依存の方、眠剤依存の方、不規則な生活の方、異性関係が盛んな方、などなど。

いろいろいますが、私たち在宅医の役割は、

彼らを「正しい方向に導くこと」では決してないということだと思っています。

●薬をちゃんと飲まないといけませんよ。

→こんなセリフは愚の骨頂。飲めないのは飲めない理由を一緒に探してあげて(剤型があわない、昼の処方が余りがち、薬を飲む理由が納得できない、認知症で飲めない、など)飲めるような援助をするのが在宅ケアのスタッフの役目。

●タバコ飲み過ぎはダメですよ。

→今更禁煙しても寿命は延びない。なんのための禁煙あるいは節煙指導なのか、今一度よく考えて患者さんに納得してもらえる理由を説明してみるべし。

●お酒ばかりのんではダメですよ。→実際に継続飲酒していた人が体調不良で飲めなくなった時に、禁断症状が出て、ナースはお酒を飲ませて禁断症状を解除していた。本当に飲んではいけないのか。飲ませながら援助する方法はないのか。

●眠剤飲み過ぎ、ダメですよ。

→たしかにそうなのだが、ではなぜ眠剤をたくさん飲むのだろうか。それを考えて対応するようにしよう。どこか痛くて眠って忘れたくて飲むのか?眠れないとイライラして飲むのか?なんとなく飲むのか?など、なぜ飲むのかを考えて対応する必要がある。
高齢者は6時間睡眠となることが一般的。21時に就寝すれば午前3時に目覚めることは生理的。そのことを知るだけでも患者は安心する。

私たち在宅ケアのスタッフは「正しい方向に導くこと」が務めではなく、

「その人の生きてきたクセのまま、困りごとに対して支援する」ことが努めなのではないでしょうか。

今、ポリファーマシーが問題になっています。ポリファーマシーとは高齢者に対して不必要なほどの多剤処方がされていること、です。

でもね、考えてみてください。
最初から山ほど薬を出す医師はそんなにいないのですよ。
困りごとに対応するうちにそのような量になったのだということを知って頂きたいのです。
その多量の薬が全て必要かどうかわかりませんが、その処方にも歴史と理由があるのです。

向精神薬を入院中に全部中止されてすっきりした処方で帰ってきた患者さん。
それはそれで素晴らしいと思うのですが、帰ってきて数日でまた不穏になったり。
急な退薬が原因のジスキネジアで、口周りのベロベロがひどくなって帰ってきて、ベロベロのために入れ歯が合わなくなったり。

薬の飲み過ぎは悪。たしかにその通りです。だから全部薬をなくす、これはあまりに強行です。患者の状態、歴史、困り、それらを見た上での多剤処方に対応する必要があります。

在宅ケアスタッフは正義の味方になるべきではなく、その人丸ごと受け止めるスタッフであるべしということです。私もよき支援者となりたいと思っています。

今後ともよろしくお願いします。