去年のことをあまり覚えておられないかもしれませんが、2017年の夏は比較的暑さが穏やかではありました。もちろん耐え難い日もなくはなかったのですが、それでも記録的な猛暑ということはなく、9月になると急に秋めいて「こんな当たり前の季節の移り変わりが近年珍しいな」と思った記憶があります。それでも熱中症の患者さんはいました。「尿道バルーンカテーテルを自分で引き抜いたので往診してほしい」と看護師から連絡があり、行ってみるとカテーテル抜去よりなによりクーラーをつけていない暑い部屋でぐったりしておられ、大急ぎで点滴をしてなんとか意識がはっきり戻ってこられた方がいらっしゃいました。
この時はクーラーのリモコンがどこに行ったか分からず、私自身も熱中症になりそうになりました。関係各者に電話しまくってリモコンのありかを探すうちに薬剤師の先生が来てくださって解決してくださったけど、彼が来なかったら私の命も危なかったです。
そして今年は本当に暑い、いえ、熱いといってもいいかもしれません。空気が熱いです。
こういう時は本当にありきたりですが、熱中症に注意です。ところが、クーラーもちゃんとつけていて水分もしっかり摂っているのに熱中症になることがあります。
今日の往診患者さんもそんな方です。
昨日から活気がなく施設の方が心配しておられました。そして本日朝一番に連絡があり、点滴をしましたが、今一つ元気がありません。
こういう時は、水分量の減少にともない薬物血中濃度が上がっていることがあります。
この方に貼っている医療用麻薬を一旦はがし、痛みを訴えたら(血中濃度が下がってきたら)もう一度新しい薬を貼ることにして対応しています。
高齢者は東洋医学的な見地からも「冷え」を持つ人が多く、また実際に寝ているので体温が上がりにくく寒く感じる方が多いようで「冷房を使ってね」といっても寒がって使わないことが多いのです。7月に入るころまでガスファンヒーターをつけている患者さんもいて診察に回る私のほうが命の危険を感じるほどです。「温かくて気持ちいい」と「命が危険」のあいだにある安全域が非常に狭いのも高齢者の特徴です。冷房をつける時は隣の部屋の冷房をつけて、ドアを開け放して冷気が直接に入って来ないようにするなどの工夫が必要です。そういうことができない場合は冷房を上向きの風向きにして、扇風機で空気を循環させるようにします。可能な場合は冷房の下にバスタオルを広げて、天蓋ベッドのようなカーテンを作って直接冷気が降ってこないようにすることもあります。

我が家の自家用車は2台あり、その両方に点滴セットを積んでおります。出先で緊急の連絡を受けてクリニックに立ち寄らずにすぐに点滴できるように準備しているのです。
夏のこの時期、点滴が熱く熱せられます。これについてうちの夫(非医療従事者)が「こんなに熱くなっても成分は大丈夫なのか?」と心配してくれますが、大丈夫。手術室の点滴は実はアツアツ(もちろんやけどしない程度に)に温めて使うのです。大量の輸液で体温が下がりますし、そもそも手術室は空調が寒く設定されており(術者が手術ガウンを着て熱い照明の真下で作業するため)、麻酔科医も寒さに震えながら仕事をしており、患者さんの保温がとても重要になるからです。
やけどするほどの温度(40度以上)の輸液は水道水で冷まして使いますが、そこまで熱くなければ少し涼しいところに置いておけばすぐに冷めます。
症状が出たなら速やかに点滴をして水分を補うのが大切です。
去年はうちの子供が風邪をひいて、他の診療所を受診させて、かかりつけ医に「お母さん、点滴してあげてくださいね」と言われ、渋々(あまり家族に点滴などをしたくない。面倒だし。)点滴したらみるみる元気になったので「やはり水分補充は重要だなあ」と実感しました。
皆様も水分塩分の補充を心がけて、冷房を適宜使うようにしてくださいね。