挨拶はもっぱら「寒いですね」となった今日この頃。
訪問診療で外からやってきますと、手も冷たく申し訳ないくらいです。
家にいらっしゃる患者さんの手も冷たくて、手の血流で測る酸素飽和度の機械がうまく数値が出ないこともあります。

私は10月ごろから聴診器を突っ込んでいる白衣のポケットに使い捨てカイロを一緒に入れています。
大学の頃、内科の教授に「聴診器ってものすごく冷たいんだよ。だから必ず患者さんに当てる前に自分の手で暖めてから当てなさい。」と習いました。
でも、外回りをする訪問診療ではそんなのじゃ温まらないくらいキンキンに冷え冷えの金属の塊になってしまっていますし、そのうえ自分の手も冷たくて、手でこすったくらいでは相変わらず聴診器はキンキンに冷えたままなのです。
こんなに冷たいとさすがに患者さんが気の毒だなあと思ってカイロを導入し始めました。
カイロを入れたからといって患者さんが喜ぶということはありませんが、聴診器が冷たいままで認知症の患者さんを怒らせてしまうような失態はなくなりました。
また、酸素飽和度の機械がうまく測定できない患者さんにはカイロを渡して手を温めてもらってから測るとうまく測れますので、カイロを持っているとそれなりに便利なのです。

今日、認知症の女性患者さんを診察するときに、たいそうご機嫌斜めでした。「インフルエンザの予防注射、受けてもらえますか?」とお尋ねするとさらにご機嫌が悪くなり、怒り出しました。予防注射を受けていいよと答えてもくれません。
診察すべく聴診器を当てようとすると「何するのー!」って怒られたのですが、私の聴診器が温かいのを知ると、怒りは収まり、診察を受けてくれました。
さらに、患者さんの手を私の両手で包むようにして握って、「今日ね、インフルエンザの予防注射なんですよ。受けてもらえますか?」とお願いすると「アンタ、手ェ、ぬくいなあ」とちょっとご機嫌が治りました。「はい。ご飯食べた後で私、今、眠いんです。」(本当)
温かい聴診器と温かい手でご機嫌が治りました。もう一度お願いします。
「今日ね、インフルエンザの予防注射なんですよ。受けてもらえますか?」
「ええ?・・・・ええけど。」
よかったー。
そんなわけで、温かい聴診器はなかなか役に立つというお話でした。