【看取りの安心勉強会 第3回】

<亡くなる前には弱りが出てくる>

急死でない場合、亡くなる前には弱りがでてきます。多くの人は自分が死ぬということについては理解されておられ、仕方がないと思っておられますが、自分が弱ることについてはご存じないことも多く、受け入れがたいものとなります。自分がトイレにも行けなくなるなんて、信じられない・・・・そんなお気持ちになることが多いと思います。

一般的にはこのことはあまり知られていませんから、調子が悪くなってきて私たち緩和医療をする医師が関与しだす頃からガクンガクンと弱ってくることになりますと、「先生、先生のお薬を飲み始めてからうちのお袋はどんどん調子が悪くなっているんです。先生のお薬はおかしいんじゃないでしょうか。」などとあらぬ嫌疑をかけられます。

調子が悪くなり始めたらこのような不信感を与えないように今後の弱りの出方は非常に激しいことをあらかじめお伝えし、それが特殊なことではなく一般的なことであり、生理的なことなのだとご説明します。

特に悪性腫瘍の場合の弱りは急激で、その弱り方は直線的ではなく、階段状であるのです。ガクンと落ちて、数日踊り場があり、またガクンと落ちる感じです。昨日まで難なくできていたことが今日急にできなくなる。昨日まで普通にトイレに行っていたのに今日はフラフラで抱えてあげないと進めない、などです。

このような階段状の急激な弱りに対して周囲は当然びっくりするのですが、周囲よりも驚いているのはご本人です。周囲より悲しみが深いのはご本人です。この弱りが出てきたときにお願いしているのはまずご本人と一緒に悲しんで頂きたい、ということです。

「だめだ。」「もうこんなこともできなくなった。」とご本人が弱音を吐かれるときに「そんなことないよ」「今日はたまたまだよ。」と言うと、これはご本人のお気持ちを否定していることになります。

「本当だねえ。昨日までできてたのに、急にできなくなってびっくりするねえ。」「悲しいなあ。本当になあ。」と一緒に悲しんであげて頂きたいのです。

そして悲しいお気持ちを一緒に共有した上で「でも、できないことはお手伝いするからね。一緒に頑張ろうね。」とお手伝いすることを言葉でお伝えしてあげてください。

弱り、悲しむ人にしていただきたいことは二つ。①自分が当たり前のことができなくなったことに、共感してほしい。 ②「手伝うよ」と言葉にしてほしい。 

そしてNGワードがあります。それは「頑張って」です。もう、これ以上頑張れないくらい頑張っているのに、さらに頑張ってと言われるとつらくなることがあります。さらに「頑張って」は「あなたが頑張って。」(私は関係ない)という言葉です。

「頑張って」ではなく、「手伝うよ」と言っていただきたいですね。