アイキャッチ画像は青葉城の伊達政宗公像です。仙台で行われた学会に行ったときの写真です。学会に行ってもとんぼ返りで観光をする余裕があったのは久しぶりでした。

【看取りの安心勉強会 第8回】

<死の前の呼吸の変化~実は本人はつらくない>

死の前の呼吸ということについてお伝えします。亡くなる前には呼吸の状態が普段と変わることがあります。死を前に筋力が落ちてくると、舌を支持することができなくなり、舌がのどの方に落ち込んできますと、いびきのような音を立てて息をすることになります。これがさらに進むと舌が気道を塞いでしまい呼吸が止まるのですが、それを回避しようと顎を突き上げるような動きをし、また沈み込み、という顎をガクガク上下にするような呼吸になります。これは生理的な変化で下顎呼吸といいます。そのような頃には気道が狭くなる一方で横隔膜がしっかりと息を引き込もうとして強い吸気になると、狭い気道に強い吸気の流れ込みで「ヒィィィ!」と甲高い気道狭窄音が発生することがあります。なお高齢者は横隔膜を引き下げる力が弱いのでこのような音がすることはほとんどありません。

想像してみると怖いですよね。顎がガクガク上下して肩で息をするのを見たり、「ヒィィィ!ヒィィィ!」と音を立てながら息をしているのを見たりしたら、どうでしょう。「なんか、いつもと違う!」きっとそう思うでしょうね。このような「異常事態」には皆さんどうされますか?「救急車!」と救急要請をするのではないでしょうか。

結論を言うと、救急車を呼んでも救命に至りません。病気や事故ではなく、亡くなる前の生理的な変化なので効果は乏しいのです。救急要請をするということは蘇生処置を希望するということですから、胸骨圧迫(心臓マッサージ)や人工呼吸を行うことになります。しばしば肋骨も折れるほどの医療行為です。もう亡くなることがわかっている。救急蘇生をしても成功はほとんどしない。そして最後に苦痛を与えることになる。これはできれば避けたいところです。

では下顎呼吸となって「ヒィィィヒィィィ!」という呼吸音になっている場合、どうすればいいのでしょうか。これは「見守り」です。見守り、は心のエネルギーを使うものです。あれこれいろいろしたくなっても我慢して見ていることです。耳はよく聞こえておられます。手を握り最後に伝えたいことを伝えましょう。「そばにいるからね、大丈夫だよ。」「ありがとう。」など旅立つ人が安心できる言葉を伝えてください。この下顎呼吸は数分のこともあれば半日続くこともあります。長く続く場合「しんどい?」と尋ねると「しんどくない」と首を振る方がほとんどです。見た目に反して、本人としてはつらいものではないようです。

そして、水を飲ませる、吸引する、姿勢を変えるなどのごく些細な刺激がきっかけで下顎呼吸が起こることがあるというのもお伝えしておきたい大切なことです。

誰のせいでもないのです。それが起こるときは表面張力の水が小さな刺激であふれるように、ほんの些細な刺激でも起きてしまうのです。