困難症例。
家族関係だったり、意見の不一致だったり、医療職の無理解だったり、介護施設の方針でケアに限界があったり、金銭的な問題だったり・・・・。
困難な症例はたくさんあります。
その中でケアマネジャーが走り回ってくれたり、訪問看護師が献身的にかかわってくれたりなどしてなんとかかんとか物事が進むこともあれば、いかんともしがたい状態になり、支援者が「もっとできたことはなかったのだろうか」と消耗することもあります。

「困難だなあ」と感じたら、カンファレンスをするというのが最近の私の流行です。
カンファレンスというのは介護の世界ではサービス担当者会議(サ担)などよく行われていますが、医師の出席は多くありません。多忙なのもありますし、医師が多職種と連携する場を貴重であると感じていないこともあるでしょう。実際に私もサ担に出ても「あまり実り多い時間ではなかったな」と思うこともありますから、カンファレンスを軽んじる医師の考えも分からなくもないというところです。
しかし、困難症例ではカンファレンスはとても有効です。
まず、カンファレンスの時に初めて会う重要人物がいたりします。その重要人物に医療者としての自分を認めてもらうと、これまで自分の手の届かなかった重要人物が協力的な発言を患者さんにしてくれたりなどすることがあるからです。
カンファレンスをするときに、私が司会をすることが多いのですが、そのときにカルテに発言を記録しながら患者さんやご家族、支援者のお話を聞きます。そしてその方の発言が終わったところで記録を音読して自分が聞いた内容が誤解なく記録されているか確認します。
このとき、できるだけ患者さんの言った単語を変えないように記録し、特に感嘆詞や感情面での発言はそのまま書くようにしています。たとえば「へえー、っと思った」を「感心した」、とか「ほんとうにしょんぼりしていました」を「落胆した」などに要約したりしないようにしています。
自分の言葉がそのまま反復されると「わかってもらえた」満足感を実感してもらえます。このように「まとめて反復」することで自分の苦しみを分かってもらえる、自分の思いを分かってもらえる、という気持ちを持ってもらえます。
自分の意見を通そうと躍起になっている人も、「わかってもらえた」と感じられると、相手の意見を何が何でも反対、という態度が軟化します。
そして意見の違いが明らかになった後、意見の共通項についても考えます。多くの場合、その参加者は「患者さんのことを大切に思っている」ということが共通項になることが多いです。というか私が関わった件でカンファレンスに参加した人の中で、患者さんのことを大切に思っていない人はいらっしゃいませんでした。
患者さんのことを大切に思っているということを軸に意見の違いを考える中で、結論が出ないまま終わることもあります。それはそれでいいと思います。また時間をおいて考えていけばいいと思います。
そして治療の方針について「積極的治療をする」「もう積極的治療はやめておく」のほかに「決められない」という選択肢もあります。カンファレンスの中で「決められない」を選んだとしてもまた繰り返しそのことについて揺れていくということになります。
「決められない」と決まりました、というのはこれからも愛情をもって難しい課題を一緒に考え続けていく、ということなのです。
そうしてカンファレンスの中で決まらないまま終了することになるのですが、それでも多くのことが変わっていきます。方向性は決まらなくても、支援者の中でチームとしての一体感が出てきますし、一人で頑張っているんじゃなくてみんなと連携していくのだという気持ちも出てきます。信用できる人、温かい人たちに支えられているということを感じるのはそれだけで値打ちがあることだと思います。
カンファレンスで「まとめて反復」。効果的なので、皆様お試しください。